人の気持ちは、その人と同じ経験をしてみなければわからない。
「そうよ、そのとおりよ!でもそれがブログと関係あるのかしら」
たか子は病におかされている。職場や近所の人たちのこころない言葉に嫌気がさしていたのだ。医者もその例外ではないほどだ。
「おう、それオレも読んだ事あるぞ。急にそんなもん読みだしてどうした」
「ちょっとね」
父は都内の某有名百貨店を勤め上げた人間だ。たか子もその点では尊敬の思いをいだいている。
「わからないことがあったら何でも聞けよ」
父のうれしそうな顔を横目にたか子は微笑みながらページをめくった。
究極のセールスレター
人の気持ちは、その人と同じ経験をしてみなければわからない。
この一節はたか子がぱっと見開いたときに目に飛び込んできた言葉だ。
人の気持ちなどわかるはずもないが、それを想像して人と接するのは大事なことで日々心がけている。その気持ちがセールスレターにつながるのなら…
と、読む気力がわいてきたのだ。
買ったきっかけはハンドルネームを海の生き物にしている有名ブロガーさんだ。
第1章
全然意味わからないわね(笑)
アメリカ人の例え話って全然わからないわ。英語なんて中学でちょっと頑張った程度のたか子にはそう思えた。
書くにはタイプライターの前で手首を切ればいいみたいな比喩があってっさっぱりわからなかった。
穏やかでないわね、くらいにしか思えなかった。まぁ、これよりは簡単なことだと筆者も書いているのだが。
気をとりなおして読み進めていこう。
書く前にする誰でもできる簡単なこと、として①~④まで記されている。
なるほど、でも誰でもできるけど簡単なことではないわね、たか子はこう理解した。勉強家になり五感をとぎすまし多くのサンプル(ブログ)を読め、ということだろう。
続いてセールスレターを書くにあたっての心構えが①~⑥まで書かれている。
そうねこのくらいの心構えは必要ね。検索上位を勝ち取っているブロガーのほとんどは当たり前のように心得ているだろう。たか子は今までマジメなつもりでも適当に書いていたのだと感じた。
それを知ったからと言ってすぐにそんなことをできるわけがないとたか子は顔をおおった。だが次の瞬間救われた。
書けば書くほど苦にならなくなってくる。その過程こそが人生に意義を与え憂鬱を防ぐ。
全くその通りだ。どんな道でも最初は苦しいものだ。コツコツとしかし確実に歩んでいくしかないのだとたか子は身をもって知っている。
「パパ、翻訳ものってこんなに読みつらいものなの?」
「そんなもんさ、お前は本を読まなさすぎだ。読む技術ってもんがある。」
そこは翻訳者としてがんばって欲しいものね、と肩をすくめるのだった。
第2章
「何よこれ、こんなのみんな使い古された手法ばかりじゃない。ここ10年くらいでTVやダイレクトメールでうんざりするほど見てきたわ。嫌悪感さえ感じるわよ」
サッと、流し読みしたたか子はつぶやいた。
「よく気づいたね。その本が出版されたのはいつだ?」
父がにやにやしている。
「1991年。日本語に翻訳されたのが2007年で2017年までに12回再販されているわ。」
「それだけ売れている本なんだからマーケティングにかかわる人間はそれを読んでそのまま使ってるってことなんだよ。それで商品が売れてるんだ。」
百貨店という組織でのぼりつめた父がいうのだから説得力がある。
「でも、私は闘病ブログを書いてるんだしあんまり関係ないかな。しかも昔の本だから背景となる話がふるいし、手紙が配達員のさぼりのせいで届かないなんて日本ではあまり心配ないもの。」
「……娘だから優しく言うけど部下だったら怒鳴ってるところだぞ。闘病ブログだって読んでもらわなきゃ意味がないんだ。同病の人の役にたちたいんじゃないのか?
それに時代や国が変わっても人の心理なんて変わらないんだ。ディカプリオのキャッチミー・イフ・ユーキャンて映画あるだろ?実在の大詐欺師が言ってるんだから間違いない、それにうんたらかんたらうんたらかんたら・・・」
たか子はお耳をシャッターガラガラして思いふけった。
そうよねぇ、誘い文句だってわかってても買っちゃうことはあるものねぇ。闘病ブログでも読んでもらうにはどうしたらいいのかしら。
ここで言う郵便配達人対策はブログでいうと検索エンジンのことかしら。SNSで活動するとかよね。まさかSEOも勉強しなきゃってこと?苦手を後回しにしてきたたか子は大きくため息をついた。
が、次の瞬間SEOの教科書を注文していた。
第2章は書く手順としてステップ1~28で構成され、この本の大部分をしめている。そのまま転用できたり今すぐ利用できるチェックリストもある。何ひとつとして読みこぼしてはいけない内容だとたか子は感じている。
たか子がグッときたのはこの文章だ。
クリーンブランドに住む男性が部屋で手紙を読んでいるところを想像するんだ。外は突風と足までうまる雪の大吹雪の真っただ中。その手紙で男性を刺激し、暖炉の前の椅子から立ち上がらせ、さっさと追い立て、凍り付いた車まで雪のなかを歩かせ、郵便局まで運転して行って郵便為替と切手を購入させ、注文票を送らせる。明日にしようなんておもわせたらダメだ。
あいかわらずややこしい日本語だ。
実際にはページを開き、商品をポチってもらうことなのだがこのくらいの意気込みが必要なのだろう。
「おお!全部読んだか。もう書けるだろ?」
いつの間にか出かけていた父がご機嫌で帰ってきた。
「まだだしそんな簡単じゃないわよ。まともに本を読んだことがないのに理解までは程遠いわ」
「たか子はその本を手にしたことが幸運の始まりだよ。あとは実践あるのみ人生はトライ&エラーの繰り返しさ!」
缶ビールをあける、プッシュという音が聞こえた。
「書いただけじゃ届かないんだぞ~(笑)その先も考えろよ」
そうとうご機嫌ね。はいはい今から続きを読むわよ。
第3~5章
後半は集客の方法や文章をつくるにあったって具体的な例をあげていくつか紹介されている。
ブログを書く時まるまる真似できるページもある。
有名ブロガ―達がブログ初心者に対してアドバイスしている内容がつめこまれているなぁ感じたとろでたか子は本を閉じた。
「ねぇ、パパ。やっぱり翻訳ものは難しいし昔のアメリカがベースだし読むのに苦労したわ。日本の同じような本ない?」
「同じような本ばかりさ(笑)日本人むけにアレンジして時代が変わるたびに同じような本が売れるのさ。わかりやすいテンプレートが載ってたりするのを適当に買ったら?」
「そういうものなの?だったらこれ一冊でいいかしら。でも何度も読み返すことが必要ね。
見えない相手を想像して気持ちを理解するのはすんごく難しいものよ。」
「相手(お客)の立場にたって、同じ経験をしたり勉強することでおのずと結果はでるんだ。」
「へぇ、仕事ではできたけどにママにはできていたかしら?」
父はビールをぐびぐび飲みながらテレビを見始めた。
★おわり★
参考図書
究極のセールスレター
シンプルだけど、一生役に立つ!お客様の心をわしづかみにするためのバイブル
著 ダン・S・ケネディ
監訳 神田昌典
訳 斎藤慎子
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